妊娠中期に入り、体調が落ち着いてくると気になり始めるのが「体重管理」や「体力作り」ですよね。「安産のために運動したほうがいいのかな?」「でも、お腹の赤ちゃんに負担がかかったらどうしよう……」と、不安とやる気の間で揺れている方も多いのではないでしょうか。
実は、正しい知識とルールさえ守れば、妊娠中の運動はママと赤ちゃんの強い味方になってくれます。特に「スクワット」や適切な「ジム活用」は、出産に必要な体力を養うのに最適です。
この記事では、医師監修のエビデンスに基づき、妊婦さんが安全に取り組める運動のルールや、具体的なスクワットの方法、ジムでのマシン選びまでを分かりやすく解説します。不安を解消して、自信を持って出産準備を始めましょう!
妊婦がスクワットやジム通いをするメリットとは?

「妊婦さんに運動?」と驚かれることもありますが、経過が順調な妊婦さんにとって、適度な運動はたくさんのメリットがあります。まずは、なぜスクワットやジム通いがおすすめなのか、その理由を見ていきましょう。
安産に必要な「骨盤底筋」と体力が鍛えられる
出産は、体力勝負の大仕事です。スクワットは、下半身の筋肉を効率よく鍛えられるため、お産の時の「いきむ力」や、長時間の陣痛に耐えるスタミナを養うのに最適です。
特に重要なのが「骨盤底筋(こつばんていきん)」への効果です。骨盤の底にあるこの筋肉は、赤ちゃんを支えるハンモックのような役割をしています。スクワットでここを鍛えて柔軟性を保つことで、産道がスムーズに開きやすくなったり、産後の尿漏れトラブルを予防したりする効果が期待できます。
急激な体重増加の防止とむくみ・腰痛の解消
妊娠中の急激な体重増加は、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などのリスクを高めてしまいます。運動でカロリーを消費することは、適切な体重管理の助けになります。
また、大きなお腹を支えることで起こりやすい「腰痛」や、血液循環が悪くなることで起きる「むくみ」も、筋肉を動かして血流を良くすることで解消されやすくなります。特にふくらはぎや太ももを動かすスクワットは、下半身のポンプ機能を助けてくれます。
メンタルケアとストレス発散
妊娠中はホルモンバランスの変化で、どうしても気分が不安定になりがちです。体を動かすと「セロトニン」という幸せホルモンが分泌され、気持ちが前向きになります。
ジムに通って外の空気に触れたり、広いお風呂やプールを利用したりすることは、良い気分転換になります。マタニティスイミングやヨガなどのクラスでは、同じ妊婦友達ができることもあり、不安を共有できる場としても心強いですよ。
妊娠中の運動は「いつから」「いつまで」?守るべき基本ルール

やる気があっても、自己判断で急に始めるのは危険です。ママと赤ちゃんの安全を守るための「鉄則」を確認しましょう。
スタートは妊娠16週(安定期)を過ぎて医師の許可が出てから
一般的に、運動を開始して良いとされるのは妊娠12週〜16週以降(妊娠中期)です。妊娠初期は流産のリスクが高い時期でもあるため、激しい運動は控えるのが一般的です。
最も重要なのは、必ず主治医の許可を得ることです。「運動を始めてもいいですか?」と検診の際に必ず確認してください。過去に切迫流産の経験がある方や、お腹の張りやすい方は特に注意が必要です。
臨月(正産期)まで続けても大丈夫?
経過が順調であれば、臨月(妊娠36週以降)まで運動を続けても問題ありません。むしろ、臨月に入ってからの適度な運動は、股関節を柔軟にし、赤ちゃんが骨盤内に降りてくるのを助ける効果も期待できます。
ただし、お腹が最大級に大きくなっている時期なので、バランスを崩して転倒しないよう、これまで以上に慎重に行う必要があります。「無理をしない」ことが長く続けるコツですよ。
絶対に運動を控えるべきケース(切迫早産のリスクなど)
以下のような症状や診断がある場合は、運動はNGです。医師の指示に従い、安静に過ごしましょう。
- 切迫早産の兆候がある(お腹の張り、子宮頸管が短いなど)
- 性器出血がある
- 前置胎盤(ぜんちたいばん)
- 妊娠高血圧症候群
- 多胎妊娠(双子以上)でリスクが高い場合
【自宅で実践】妊婦のための「正しいスクワット」やり方講座

それでは、自宅ですぐにできる「マタニティ・スクワット」を紹介します。普通の筋トレとは違い、「ゆっくり」「呼吸を止めない」のがポイントです。
お腹に負担をかけない「マタニティ・スクワット」の基本フォーム
お腹を圧迫せず、股関節をしっかり使うためのフォームです。
- 足を肩幅よりも広く開く(ワイドスタンス):お腹がつっかえないようにスペースを作ります。
- つま先を外側(45度くらい)に向ける:膝もつま先と同じ方向に向けます。
- 背筋を伸ばす:猫背にならないよう、視線はまっすぐ前に。
- ゆっくり腰を下ろす:息を吐きながら、お尻を真下に下ろすイメージで。膝がつま先より前に出過ぎないように注意しましょう。
- ゆっくり戻る:息を吸いながら、元の姿勢に戻ります。膝が伸び切る手前で止めると効果的です。
転倒防止!壁や椅子を使った安全なバリエーション
お腹が大きくなるとバランス感覚が鈍り、転倒しやすくなります。安全第一で行うために、支えを使いましょう。
- 椅子を使う:背もたれのある椅子を前に置き、背もたれに手を添えて行います。万が一バランスを崩しても安心です。
- 壁を使う:壁に背中をつけたまま、ズルズルと滑り降りるようにスクワットする方法(ウォール・スクワット)もおすすめです。背中が支えられているので腰への負担も減らせます9。
回数の目安とNGフォーム
- 回数:1セット10回程度を、体調に合わせて1日2〜3セット行いましょう。回数よりも「気持ちよく動く」ことを優先してください。
- NGフォーム:
- 息を止める(怒責):いきむように息を止めると血圧が上がり、赤ちゃんへの酸素供給も減ってしまいます。常に呼吸を続けましょう。
- 深くしゃがみすぎる:太ももが床と平行になるまで下げる必要はありません。「ハーフスクワット」くらいの浅さでも十分効果はあります。
- お腹を圧迫する:前屈みになりすぎるとお腹を圧迫します。上体はなるべく起こしておきましょう。
【ジムで実践】マタニティジムの選び方とおすすめメニュー

「家だと続かない」「もっと色々な運動がしたい」という方は、ジムを活用するのも手です。ただし、妊婦さんに適した環境選びが大切です。
普通のジムと「マタニティ対応ジム」は何が違う?
一般的な24時間ジムなどは、安全上の理由から妊婦の利用を禁止している場合があります。一方、「マタニティ対応ジム」や、マタニティスイミングなどのプログラムがあるスポーツクラブは、以下の点で安心です。
- 専門知識のあるスタッフ:妊婦の体調変化を理解したトレーナーがいる。
- 医療連携:万が一の時に提携病院と連携が取れる。
- 温度管理:妊婦さんに適した室温・水温に管理されている。入会前に必ず「妊娠中でも利用可能か」を確認し、見学に行くことをおすすめします。
ジムで妊婦におすすめのマシンと有酸素運動
ジムにあるマシンの中で、妊婦さんが安全に使えるのは以下のものです。
- リカンベントバイク(背もたれ付きバイク):背もたれがあり、座って足を前に出して漕ぐタイプのバイクです。腰への負担が少なく、転倒のリスクもほぼゼロなので一番のおすすめです。
- クロストレーナー:足踏みと腕の運動が同時にできるマシンです。着地の衝撃がないため、膝や関節に優しく、全身運動になります。
- ウォーキングマシン(トレッドミル):傾斜をつけすぎず、平坦な道を歩く設定で使いましょう。必ず手すりを持って、転倒防止クリップをつけてください。
妊婦が避けるべきマシンやプログラム
逆に、使ってはいけないマシンもあります。
- 腹筋マシン全般:お腹を強く圧迫したりねじったりする動きは厳禁です。腹直筋離開(ふくちょくきんりかい)の原因にもなります。
- 仰向けで行うベンチプレスなど:妊娠中期以降、仰向けになると子宮が血管を圧迫し、気分が悪くなる「仰臥位低血圧症候群(ぎょうがいていけつあつしょうこうぐん)」になる恐れがあります。
- 激しいスタジオプログラム:ジャンプや急な方向転換があるエアロビクスやダンスは、転倒や関節痛の原因になるため避けましょう。ホットヨガも体温が上がりすぎるため推奨されません。
こんな時は即中止!運動中のお腹の張り・危険サイン

運動中に「あれ?」と思ったら、迷わずストップしてください。無理をすると取り返しのつかないことになる可能性があります。
お腹の張り・痛み・出血を感じたら
運動中にお腹が「カチカチに硬くなる」張りを感じたり、痛みがあったりした場合は、すぐに運動を中止して休憩してください。
- 生理的な張り:休めばすぐに治まる場合は様子を見ても大丈夫です。
- 危険なサイン:休んでも治らない、規則的に痛む、出血がある場合は、すぐに産婦人科に連絡してください。
胎動の変化に気をつける
運動後は、赤ちゃんの動き(胎動)にも注意を払いましょう。運動後に胎動が極端に減ったと感じる場合は、赤ちゃんがストレスを感じている可能性があります。静かに横になり、胎動カウントをして様子を見てください。もし胎動を感じなければ受診が必要です。
水分補給と服装の注意点
- 水分補給:妊娠中は脱水になりやすく、脱水は子宮収縮(お腹の張り)を引き起こす原因になります。運動前・中・後にこまめに水を飲みましょう。15分おきくらいに一口飲むのが目安です。
- 服装:お腹を締め付けないマタニティウェアを選びましょう。また、転倒防止のため、滑りにくいシューズを履くことも大切です。体を冷やさないよう、汗をかいた後はすぐに着替えてくださいね。
おわりに〜無理のないスクワットとジム活用で、母子ともに健康な出産準備を〜
妊娠中のスクワットやジム通いは、安産に向けた体作りや、ママのリフレッシュにとても効果的です。
大切なのは、「頑張りすぎないこと」。
- 医師の許可を得てからスタートする
- お腹の張りや体調の変化に敏感になる
- 転倒防止を徹底し、安全なフォームで行う
この基本ルールを守って、お腹の赤ちゃんと対話しながら、楽しく体を動かしてみてください。体力がつけば、出産本番も、その後の育児もきっと前向きに乗り越えられるはずですよ!
参考
- 妊娠期における身体活動に関する日本のガイドラインのレビュー - 厚生労働科学研究成果データベース
- ACOG Committee Opinion Physical Activity and Exercise During Pregnancy and the Postpartum Period | Physicians | University of Utah Health
- 産婦人科部会 - 日本臨床スポーツ医学会
- 学術委員会産婦人科部会提言 - 日本臨床スポーツ医学会
- EXERCISE IN PREGNANCY AND THE POSTPARTUM PERIOD - Sports Medicine Australia
- Exercising While Pregnant | Pregnancy Workouts for all 3 trimesters - Orbit Fitness
- Exercise During Pregnancy Is A Good Thing | FCNE
- 妊娠初期からスクワットは可能?スクワットのやり方や妊娠初期を過ぎてからがよい理由を紹介
- マタニティスイミングスクール - セントラルスポーツ
- Guidelines of the American College of Obstetricians and Gynecologists for exercise during pregnancy and the postpartum period | British Journal of Sports Medicine
- ACOG Exercise Guidelines - bump wellness
- CHAMPIONING MOTHERHOOD: EXERCISE AND THE PREGNANT ATHLETE - Gatorade Sports Science Institute
- 【医師監修】骨盤底筋トレーニング
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