チョココラム

犬がチョコを食べた!致死量や症状、すぐすべき3つの対処法を徹底解説【医師監修】

結論から申し上げます。犬にチョコレートは「絶対NG」であり、命に関わる非常に危険な食べ物です。

もし、今あなたの目の前に、チョコレートを誤食してしまった愛犬がいるのであれば、あるいは「ほんの少しだから大丈夫だろう」と自分に言い聞かせようとしているのであれば、その考えを直ちに捨ててください。そして、「様子を見る」ことは絶対にしないでください。

チョコレート中毒の恐ろしさは、食べてすぐには症状が現れない「タイムラグ」にあります。たとえ現時点で愛犬が尻尾を振って元気そうに見えたとしても、消化管の中では刻一刻とチョコレートが分解され、有毒成分である「テオブロミン」が血流に乗って全身へ運ばれ始めています。中毒症状が目に見える形で現れた時には、すでに毒素が脳や心臓に到達し、手遅れに近い状態になっているケースも決して少なくありません。

あなたの愛犬を守れるのは、飼い主であるあなただけです。そして、その生死を分けるのは、摂取してから処置を開始するまでの「時間」です。

今すぐ、かかりつけの動物病院、または最寄りの救急病院へ電話をし、獣医師の指示を仰いでください。

この記事では、突然の出来事にパニックになっている飼い主様が、冷静かつ迅速に最善の行動を取れるよう、「食べてしまった時の正しい対処法」「体重別の危険な摂取量(致死量目安)」「症状が現れるまでの時間と経過」について、最新の獣医学的根拠に基づき徹底的に解説します。インターネット上には古い情報や誤った民間療法も散見されますが、本記事では、医学的に推奨される確実な情報のみを網羅しました。愛犬の命を守るための羅針盤として、この記事を役立ててください。


【緊急】犬がチョコレートを食べてしまった時の対処法

愛犬がチョコレートを食べてしまった際、飼い主の行動の早さと正確さが、その後の予後(回復するかどうか、あるいは後遺症が残るかどうか)を大きく左右します。心臓が早鐘を打っているかもしれませんが、まずは大きく深呼吸をしてください。そして、焦る気持ちを抑え、以下の手順で冷静に対処してください。

まずは落ち着いて「いつ・何を・どのくらい」食べたか確認

動物病院に電話をかける前に、必ず手元に情報を整理する必要があります。獣医師は電話口で、あなたの愛犬が「今すぐ処置が必要な緊急状態なのか」、それとも「経過観察で済むレベルなのか」を瞬時に判断しなければなりません。その判断材料となるのが、以下の3つの「5W1H」情報です。

これらが不明確だと、獣医師も適切な指示が出せません。パッケージのゴミや食べ残しが散乱している場合は、それらを捨てずに確保し、以下の項目をメモしてください。

1. いつ食べたのか(摂取からの経過時間)

食べてから「何分」「何時間」が経過しているかは、治療方針を決定する最大の要因です。

  • 1〜2時間以内: まだチョコレートが胃の中にとどまっている可能性が高いゴールデンタイムです。この段階であれば、動物病院で「催吐処置(薬剤を使って吐かせる処置)」を行うことで、毒素が小腸から吸収されるのを未然に防ぐことができます。吸収される前に出してしまえば、中毒症状は起きません。
  • 3〜4時間以上: 胃から小腸へと移動し、吸収が始まっている可能性が高まります。この場合、単に吐かせるだけでなく、点滴や吸着剤(活性炭)の投与など、全身的な治療が必要になるケースが増えます。
  • 半日以上: すでに多くの毒素が吸収されています。症状が出ていなくても急変のリスクが高いため、警戒レベルは最大になります。

2. 何を食べたのか(チョコレートの種類とカカオ含有量)

「チョコレート」と一口に言っても、その種類によって毒性は天と地ほどの差があります。

  • 製品名: (例:明治ミルクチョコレート、カカオ72%チョコレート、チョコチップクッキーなど)
  • カカオ含有量(%): これが最も重要です。パッケージの表や裏面に「カカオ○○%」という記載がないか確認してください。カカオ分が高ければ高いほど、中毒物質である「テオブロミン」が多く含まれており、少量でも致死率が跳ね上がります。
  • 原材料表示: パッケージを捨ててしまった場合でも、ネット検索で製品名を調べ、カカオ分や原材料を確認してください。

3. どのくらい食べたのか(摂取量)

「板チョコ1枚(50g)」「袋の半分」「ひとかけら」など、できるだけ具体的な量を把握します。

  • 食べ残しからの逆算: 元のパッケージの内容量(例:100g)から、床に残っている食べ残し(例:20g)を引くことで、摂取量(80g)を推定できます。
  • 愛犬の体重: 中毒量は「絶対量」ではなく、「体重1kgあたりの摂取テオブロミン量」で決まります。30kgの大型犬にとって無害な量でも、2kgのチワワにとっては致死量になることがあります。最新の体重を把握しておくことが重要です。

自己判断での「様子見」や「無理に吐かせる」はNG

インターネット上には「オキシドール(過酸化水素水)を飲ませて吐かせる」「塩を大量に飲ませる」といった、自宅で行う催吐処置の方法が紹介されていることがあります。しかし、これらは現代の獣医療では「絶対に推奨されない危険な行為」です。

パニックになっている飼い主様は「病院に行く時間がない」「なんとかして毒を出してあげたい」という一心でこれらの方法を試しがちですが、それが愛犬の命をさらに縮める結果になることがあります。その理由は以下の通りです。

オキシドールの危険性

オキシドールは胃の中で発泡し、その刺激で嘔吐を促しますが、副作用のリスクが極めて高い薬剤です。

  • 胃粘膜の重度損傷: 胃の内壁がただれ、出血性胃炎や胃潰瘍(びらん)を引き起こすことがあります。チョコレート中毒の治療に加え、重度の胃炎治療が必要になります。
  • 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん): 自宅で無理に吐かせようとすると、吐いたものが気管に入ってしまうリスクがあります。誤嚥性肺炎は致死率の高い病気であり、チョコレート中毒以上に致命的な状態になることが多々あります。

塩(食塩)の危険性

「塩水を飲ませて吐かせる」という方法は、昔の民間療法ですが、現在は禁忌とされています。

  • 食塩中毒: 吐かせるために必要な塩の量は、犬にとっての致死量に近い場合があります。大量のナトリウムが体内に吸収されると「高ナトリウム血症」を引き起こし、脳浮腫、痙攣発作、そして死に至るリスクがあります。チョコレートの毒を出すために塩の毒を入れるようなものであり、本末転倒です。

「自宅で吐かせようとして失敗し、時間が経過してから病院に来る」のが最も予後を悪くします。 何もせず、直ちにプロの医療機関へ向かってください。

夜間・休日に食べてしまった場合の連絡先

チョコレートの誤食事故は、バレンタインデーやクリスマス、あるいは飼い主がリラックスしてお菓子を食べている夜間・休日に発生しやすい傾向があります。かかりつけの病院が診療時間を過ぎている場合でも、諦めてはいけません。

1. 救急病院の探し方

まずは、お住まいの地域の「夜間救急動物病院」を検索してください。

  • Googleマップ: 「近くの夜間動物病院」「救急動物病院」で検索し、現在地から車で移動可能な範囲の病院を探します。
  • 夜間救急検索サイトの活用: 「全国夜間救急動物病院検索サイト」などを利用すると便利です。例えば関東圏であれば、東京都内に12件、神奈川県に9件、埼玉県や千葉県にも複数の夜間救急センターが登録されています。これらは24時間体制、もしくは夜20時から翌朝まで診療を行っています。

2. 電話での確認事項

見つけた病院にいきなり向かうのではなく、必ず電話を入れてください。

  • 「犬がチョコレートを食べた」という旨を伝えます。
  • 先述した「いつ・何を・どのくらい・体重」を簡潔に伝えます。
  • 「今すぐ受け入れが可能か」を確認します。救急病院は、他の重患の手術中などで一時的に受け入れを停止している場合があるためです。

3. 移動中の注意

  • 車での移動中、愛犬が嘔吐した場合に備えて、ペットシーツやタオルを多めに用意してください。
  • 興奮させないよう、クレートやキャリーに入れ、優しく声をかけて落ち着かせてあげましょう。
  • もし運転手が確保できるなら、助手席の人が愛犬の状態を常に観察し、痙攣などが起きたらすぐに病院へ伝えてください。

どれくらい食べると危険?犬の体重別・チョコレートの致死量目安

「ひとかけらなら大丈夫?」「板チョコ1枚は死ぬ?」という疑問に対し、科学的な数値に基づいて解説します。

なぜ人間にとって美味しいチョコレートが、犬にとっては毒になるのでしょうか?それは、チョコレートの原料であるカカオに含まれる「テオブロミン」という成分を、犬が代謝(分解)する能力が極端に低いためです。

人間であれば、テオブロミンを摂取しても短時間で分解・排出できますが、犬の体内での半減期(成分が半分になる時間)は約17.5時間と非常に長く、長時間にわたって体内を循環し続けます。その結果、中枢神経、心臓、腎臓などが過剰に刺激され続け、中毒症状が引き起こされるのです。

中毒成分「テオブロミン」の含有量がカギ

チョコレートの種類によって、テオブロミンの含有量は天と地ほどの差があります。一般的に「色が黒く、苦いチョコレートほど危険」と覚えてください。

  1. ホワイトチョコレート:
    • テオブロミン含有量は極微量(約0.05mg/g)です。テオブロミン中毒による死のリスクは極めて低いですが、油断は禁物です。後述する「脂肪分による膵炎」のリスクがあるため、大量摂取はやはり危険です。
  2. ミルクチョコレート:
    • テオブロミン含有量は中程度(約1.5〜2.5mg/g)。子どもがよく食べる一般的な板チョコです。一見安全そうに見えますが、小型犬にとっては板チョコ1枚でも十分に致死量になり得ます。
  3. ビター(ブラック)チョコレート:
    • テオブロミン含有量は多い(約5mg/g以上)。「甘さ控えめ」のチョコは要注意です。ミルクチョコの2〜3倍の毒性があると考えてください。
  4. 高カカオチョコレート(カカオ72%〜99%):
    • 極めて危険です。健康志向の高まりで人気ですが、犬にとっては猛毒です。製品によっては1gあたり10〜20mg以上のテオブロミンを含む場合があり、たったひとかけらでも重篤な中毒を引き起こします。
  5. ココアパウダー:
    • お菓子作りに使う純ココアなどは、成分が濃縮されているため含有量は非常に高い(5〜20mg/g)。粉末をそのまま舐めたり、こぼれた粉を吸い込んだりした場合は緊急性が高いです。

【早見表】体重別・危険な摂取量の目安

以下は、犬の体重別に「中毒症状が出る可能性がある(受診が強く推奨される)」チョコレートの摂取量目安です。この表を見て、愛犬が食べた量が「危険域」に入っていないか確認してください。

※注意: この表はあくまで一般的な目安であり、個体差があります。「これ以下の量なら絶対に安心」という保証ではありません。 少しでも摂取した疑いがあるなら、自己判断せずに獣医師に相談することを強く推奨します。

中毒症状発現リスクの基準(テオブロミン摂取量に基づく)

  • 20mg/kg: 軽度の中毒症状(嘔吐、下痢、興奮)が出始めるライン。
  • 40〜50mg/kg: 重度の中毒症状(不整脈)が出るライン。
  • 60mg/kg: 痙攣発作が起きるライン。
  • 100〜200mg/kg: 致死量に至る危険性が高いライン。

以下の表は、「軽度の症状が出始める(20mg/kg)」基準で計算しています。これを超えていたら即受診が必要です。

犬の体重ミルクチョコレート(約2mg/g想定)ブラックチョコレート(約5.5mg/g想定)高カカオ (72%以上)(約12mg/g想定)危険度のイメージ
3kg
(チワワ、トイプードル等)
30g
(板チョコ半分強)
11g
(1〜2かけら)
5g
(ひとかけら弱)
超高リスク
一口食べただけで危険。
5kg
(ミニチュアダックス等)
50g
(板チョコ1枚)
18g
(3〜4かけら)
8g
(1かけら強)
わずかな量で中毒域に達する。
板チョコ1枚は致命的。
10kg
(柴犬、フレンチブル等)
100g
(板チョコ2枚)
36g
(板チョコ半分以上)
16g
(3かけら程度)
中型犬でも高カカオは
数個で危険。
20kg
(ボーダーコリー等)
200g
(板チョコ4枚)
72g
(板チョコ1.5枚)
33g
(板チョコ半分強)
体重があっても
油断は禁物。
30kg
(ゴールデンレトリバー等)
300g
(板チョコ6枚)
109g
(板チョコ2枚強)
50g
(板チョコ1枚)
大量誤食でなければ
耐えることもあるが受診必須。

※「ひとかけら」は一般的な板チョコの1ブロック(約3〜5g)を想定しています。

※高カカオチョコのテオブロミン量は製品により大きく異なりますが、リスク管理のため高めの数値で想定しています。特にカカオ99%などはさらに含有量が高い可能性があります。

少量でも危険?「ひとかけら」なら大丈夫なのか

表からも分かる通り、体重3kg以下の超小型犬の場合、高カカオチョコレートであれば「たったひとかけら(5g)」食べただけで、中毒症状が出るライン(20mg/kg)を超えてしまいます。

「たったこれだけだから大丈夫だろう」という人間の感覚は、体の小さな犬には通用しません。

また、テオブロミンの感受性(効きやすさ)には個体差があります。

  • シニア犬: 代謝機能が落ちているため、少量でも重症化しやすいです。
  • 心臓病の持病がある犬: テオブロミンの心刺激作用により、致死量以下でも致命的な不整脈を起こす可能性があります。
  • てんかん持ちの犬: 痙攣発作の閾値が下がっているため、神経症状が出やすくなります。

「ひとかけらだから大丈夫」という自己判断は、愛犬のサイズやチョコの種類によっては命取りになる認識を持ってください。


食べてから何時間後に症状が出る?中毒症状と経過

チョコレート中毒の恐ろしい点は、「食べてすぐには症状が出ない」ことです。食べてから数時間は、いつもと変わらず元気に見えることがほとんどです。そのため、飼い主が「元気そうだから大丈夫だったんだ」と油断して就寝し、朝起きたら愛犬が重篤な状態になっていた、あるいは亡くなっていた、という悲しいケースは後を絶ちません。

症状の現れ方は、摂取量や個体差によりますが、一般的なタイムラインは以下の通りです。

初期症状(下痢・嘔吐・興奮):摂取後2〜4時間

摂取から2時間〜4時間後、遅くとも6時間〜12時間以内には、体内のテオブロミン濃度が上昇し始め、初期症状が現れます。

  • 消化器症状:
    • 嘔吐・下痢: 胃腸への直接的な刺激により起こります。嘔吐物からはチョコレートの甘い匂いがすることがあります。
    • 多飲多尿: テオブロミンの利尿作用により、水をガブガブ飲み、大量のおしっこをします。おしっこを失敗することもあります。
  • 行動の変化(中枢神経興奮):
    • 落ち着きがない: 部屋の中をウロウロし続ける、座ってもすぐに立つ、といった行動が見られます。
    • パンティング: 運動もしていないのに「ハァハァ」と息が荒くなります。
    • 過敏: 物音に過剰に反応したり、飼い主が触ろうとするとビクッとしたりします。

重篤な症状(痙攣・不整脈・意識障害):摂取後6〜12時間

体内への吸収が進み、血中濃度がピークに達すると(摂取から数時間〜半日後)、神経や心臓に深刻な影響が出ます。この段階になると、命の危険が非常に高くなります。

  • 神経症状:
    • 振戦(しんせん): 全身がプルプルと震えます。寒さによる震えとは明らかに異なります。
    • 痙攣(けいれん)発作: 手足をバタバタさせて泡を吹く、硬直してのけぞるなどの発作が起きます。痙攣が続くと体温が40度以上に急上昇し、脳細胞が破壊される危険があります。
    • 意識障害: 呼びかけに反応しない、ぐったりして動かない、昏睡状態。
  • 循環器症状:
    • 頻脈・不整脈: 心臓が異常に速く打ったり、リズムが狂ったりします。これらは突然死(心停止)の直接的な原因となります。

症状が続く期間とピーク

犬の体内でテオブロミンが分解・排出される速度は非常に遅く、半減期は約17.5時間と言われています。

これは、一度体に入ったテオブロミンが半分に減るまでに、ほぼ丸一日かかることを意味します。そのため、中毒症状は一過性のものではなく、24時間〜72時間(丸3日間)ほど続く可能性があります。

最初の24時間を乗り越えて症状が落ち着いたとしても、体内に毒素が残っている限り、膵炎などの二次的な疾患が遅れて発症するリスクもあります。

したがって、「半日経って元気だからもう安心」ではありません。最低でも24時間、できれば48時間は厳重な観察が必要です。


動物病院での治療法と費用の目安

動物病院へ連れて行った場合、どのような治療が行われるのでしょうか。事前に治療の流れや費用の目安を知っておくことで、パニック状態でも獣医師の説明を落ち着いて聞くことができます。

基本的に、チョコレート中毒に対する「特効薬(解毒剤)」は存在しません。テオブロミンを無効化する注射などは開発されていないのです。そのため、治療の目的は以下の2点に集約されます。

  1. 毒素の排出: まだ吸収されていない毒を体外に出す、あるいは吸収された毒を早く尿便に出させる。
  2. 対症療法: 出ている症状(痙攣や不整脈)を薬で抑え、体が毒素を代謝しきるまで命を繋ぐ。

1. 催吐処置(吐かせる処置)と胃洗浄

誤食から時間が浅い(概ね2〜4時間以内)場合に行われる、最も効果的な初期治療です。

  • 催吐処置: 血管を確保し、吐き気を催す薬剤(トラネキサム酸やアポモルヒネなど)を静脈注射します。数分以内に強い吐き気が生じ、胃の中に残っているチョコレートを物理的に排出させます。成功すれば、これから吸収されるはずだった毒素を体外に出せるため、予後は劇的に良くなります。
  • 胃洗浄: 大量のチョコを食べている場合や、意識障害があり誤嚥のリスクが高い場合、あるいは催吐処置で吐かない場合は、全身麻酔をかけて気管挿管し、胃の中にチューブを入れて温水を出し入れして洗浄します。大掛かりな処置になるため、費用もリスクも上がります。

2. 活性炭の投与や点滴治療

胃から腸へ流れてしまった毒素や、すでに血液中に入った毒素への対処です。

  • 活性炭(吸着剤)の投与: 医療用の活性炭(真っ黒な液体状の薬)を飲ませます。活性炭は腸内でテオブロミンを吸着し、便として排出させる働きがあります。テオブロミンは「腸肝循環」といって、一度吸収されても肝臓から胆汁として腸に戻り、また吸収されるというサイクルを繰り返す厄介な性質があります。活性炭はこのサイクルを断ち切るために、数時間おきに複数回投与されることが一般的です。
  • 静脈点滴: 点滴で水分を大量に補給することで、尿の量を増やし、血中のテオブロミンを尿と一緒に排出させます(利尿作用)。また、嘔吐や下痢による脱水を防ぎ、膵臓などの臓器を保護する役割もあります。

3. 対症療法(発作止め・心臓の薬)

すでに重篤な症状が出ている場合に行われます。

  • 抗痙攣薬: 痙攣発作を止めるための鎮静剤を使用します。
  • 抗不整脈薬: 心臓の拍動を正常に戻すための薬を使用します。

4. 治療にかかる費用の相場

動物病院は自由診療のため病院ごとに料金設定は異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。夜間救急の場合は、これに別途「時間外診察料(5,000円〜10,000円程度)」が加算されることが多いです。

項目費用の目安備考
初診・再診料1,000円〜3,000円カルテ作成や問診の費用。
血液検査5,000円〜15,000円肝臓・腎臓・膵臓の値や電解質を確認するために必須。
催吐処置5,000円〜15,000円薬剤料含む。体重により変動します。
活性炭・内服薬2,000円〜5,000円毒素吸着剤や胃腸薬など。
点滴(静脈)3,000円〜8,000円/回半日〜1日かけて流す場合。
胃洗浄30,000円〜50,000円麻酔料が別途必要な場合もあり高額になります。
入院費5,000円〜20,000円/日重症度によりICU管理などが必要な場合は高くなります。
  • 軽症で、吐かせて通院のみの場合: 2万円〜4万円前後
  • 入院が必要な中等度〜重症の場合: 5万円〜10万円以上
  • 胃洗浄や数日の集中治療が必要な場合: 15万円〜20万円以上

ペット保険に加入している場合は、窓口精算が可能か確認できるよう保険証を持参しましょう。高額になる可能性があるため、クレジットカードを用意しておくと安心です。


よくある疑問(Q&A)

パニックの中では様々な疑問が浮かぶと思います。飼い主様からよく寄せられる質問について、獣医学的な視点から回答します。

Q1. ホワイトチョコレートなら食べても大丈夫?

A. テオブロミン中毒のリスクは低いですが、「急性膵炎」のリスクがあります。

ホワイトチョコレートはカカオマスを含まない(ココアバターのみを使用)ため、中毒物質であるテオブロミンの含有量は極微量です。そのため、黒いチョコレートのように痙攣や不整脈を起こして死亡するリスクは低いです。

しかし、決して「安全」ではありません。ホワイトチョコレートは脂肪分と糖分が非常に多いことが問題です。犬が大量の脂肪分を一度に摂取すると、膵臓に過度な負担がかかり、激しい腹痛や嘔吐を伴う「急性膵炎(すいえん)」を引き起こす可能性があります。膵炎は重症化すると多臓器不全を起こし、命に関わることもある怖い病気です。

「ホワイトチョコだから大丈夫」と放置せず、大量に食べた場合はやはり動物病院を受診すべきです7。

Q2. チョコパンやチョコアイス、クッキーなどの加工品の場合は?

A. 含有量を特定しにくいため、油断せずに受診を推奨します。

「チョコパン」や「チョコアイス」は、パン生地やアイスクリームの部分が多いため、純粋なチョコレート摂取量は少なく見えるかもしれません。しかし、これらには以下のリスクが潜んでいます。

  1. 準チョコレート・ココアパウダーの使用: 加工品に使われるチョコやココアパウダーは、テオブロミン濃度が予想外に高い場合があります。
  2. 複合中毒のリスク: チョコパンの中にレーズン(ブドウ中毒:腎不全のリスク)や、クッキーの中にマカダミアナッツ(ナッツ中毒:神経症状のリスク)、あるいは甘味料としてキシリトール(低血糖・肝不全のリスク)が含まれている場合があります。これらを同時に誤食すると、チョコレート単体よりも遥かに危険な状態になります。
  3. チョコチップ: クッキーなどに含まれるチョコチップは、小さい粒に成分が凝縮されています。小型犬の場合、チョコチップクッキー数枚でも危険域に達することがあります。

Q3. 食べてから数時間経っても元気な場合でも病院に行くべき?

A. はい、必ず相談してください。

繰り返しになりますが、チョコレート中毒は「食べてから半日後に急変する」ことが最大の特徴であり、最も怖い点です。「今は元気」なのは、まだ胃の中にチョコがあるか、吸収の途中だからに過ぎない可能性が高いのです。

症状が出てから(=毒素が全身に回ってから)慌てて病院に行っても、治療は難航し、費用も高額になり、愛犬の体への負担も大きくなります。「無症状のうちに吐かせて毒素を出し切る」ことが、愛犬にとっても飼い主さんにとっても、最もリスクが低い選択です。自己判断せず、プロの判断を仰いでください2。


おわりに〜犬にチョコは「誤食」が一番多い!届かない場所に保管を〜

最後に、この記事の重要ポイントを再確認します。

  1. 初期対応が命: 「様子見」は絶対にせず、直ちに動物病院へ連絡してください。
  2. 情報収集: 「いつ・何を・どのくらい・体重」のメモが、獣医師の判断を助けます。
  3. 自己流は危険: オキシドールや塩で吐かせる民間療法は、愛犬をさらに苦しめるだけです。
  4. 致死量の認識: 小型犬にとって、高カカオチョコは「ひとかけら」が命取りになります。
  5. 油断大敵: 症状が出るまでには時間がかかります。「元気そう」に騙されないでください。

犬の誤食事故の中で、チョコレートは常に上位を占めます。犬は「飼い主さんが美味しそうに食べているもの」に強い興味を持ちますし、甘い香りに誘われてパッケージごと食べてしまうこともあります。

「テーブルの上に置きっぱなしにしない」「ゴミ箱には蓋をする」「カバンの中に入れたまま床に置かない」といった、物理的に届かない環境作りこそが、最大の予防策であり、愛犬への一番のプレゼントです。

もし誤食してしまっても、飼い主さんがパニックにならず、この記事の内容に従って冷静かつ迅速に行動すれば、助かる可能性は十分にあります。自分を責めすぎず、今は目の前の愛犬を救うために、最善の行動(病院へ行くこと)をとってください。あなたの愛犬が、無事に元気な姿に戻れることを心から願っています。

参考

  • この記事を書いた人

andew magazine 編集部

世界一やさしいチョコレート andew magazine編集部です。メンバーボイスやお知らせ、コラムをお届けします。

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